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2017年9月 2日 (土)

谷崎潤一郎「天鵞絨の夢」について(1)

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谷崎潤一郎「天鵞絨の夢」(大正八年)は、中国を舞台とする怪奇幻想文学です。

このたび、文豪カフヱ「谷崎潤一郎びより」にて、10/22(日)に役者の鏡谷眞一さんをお招きして朗読会を開くことになりました。

そこで、この作品の魅力や朗読会情報についてお伝えしていきたいと思います。
本記事はその第1弾です。

「天鵞絨の夢」とは

杭州・葛嶺山麓の湖のほとりにそびえる白亜の家。

はるばる日本からやって来て杭州を旅する「私」は、それは温秀卿という上海の富豪の別荘だと教えられるが、実はその邸は、温氏とその妻である「女王」が数多の奴隷を「歓楽の道具」として弄んでいる魔窟だった――。

この露見が発端となり、邸から脱出できた少年少女の奴隷たちが次々と秘密を告白してゆき、温氏夫妻の世にも不思議な頽廃的生活と、まるで人口楽園のごとくきらびやかな悪の城の機械仕掛けが明らかにされていく。

「まるでお伽噺にあるやうな宮殿だの庭園だのを包んで居るあの白壁の家の秘密――それを詳しく話したら、恐らくアラビアン、ナイトのやうな奇妙な物語が出来上るに違ひない」(本文より)
とあるように、谷崎が目指したのは、大正版中国趣味のアラビアン・ナイトだったのでしょう。

ユートピアともディストピアともつかぬ人口楽園という意味では、江戸川乱歩の「パノラマ島奇譚」の先駆的存在でもあり、谷崎らしい異国趣味と妖しさに満ちあふれた小説です。

美しき未完作品

しかしながら、実はこの「天鵞絨の夢」は未完作品なのです。

草稿段階でのタイトルは「十人の奴隷の告白」で、十人もの奴隷たちに順番に語らせ、その断片をつなぎ合わせることで館の途方もなく壮大な秘密が明らかになる、といった展開を構想していたようです。

けれども三人目の奴隷の告白を書き終えたところで中断してしまい、谷崎が結局この作品を完成させることはありませんでした。

未完作品ということで、谷崎文学の中ではマイナーな部類に属する小説で、あまり多くの人に読まれてはいません。

ですが、完結していないという点や設定上の瑕疵を脇に置き、三人の奴隷たちの告白だけを読めば、まるで宝石の原石のように美しく、水と鉱物質系の綺想に満ちた幻想小説だということが分かります。

とりわけ、「第一の奴隷」とである美少年と「第二の奴隷」の美少女の物語が、青い水と光の煌めきに満ちていること!

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「女王」と呼ばれ館に君臨している温氏の妻は、水底がガラス張りになっている池をこしらえ、そのガラスの下に秘密の洞窟を持っています。

このことは夫にすら内緒で、お気に入りの美少年奴隷を侍らせて阿片を吸って愉しむための隠れ家にしているのですね。

洞窟の外の世界を全く知らない少年奴隷は、無垢な心で女王を崇拝しています。

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一方で女王は、池の中でこれまた寵愛している美少女の奴隷を泳がせ、その姿を眺めて愉しんでいます。

問題は、ある日とうとうガラス越しに、水中で泳ぐ美少女と地下洞窟の少年が出会ってしまったことです。

一目見て惹かれ合い恋に落ちた二人ですが、厚いガラスの壁と水に阻まれて、お互いに触れることも名前を聞くことすらもできません。

この透明な壁に隔てられた少年と少女の恋が何とも美しく痛切なのです。

朗読会という試み

そこで、今回の朗読会では、この少年と少女の語りである「第一・第二の奴隷の告白」を中心に据えることにしました。

設定に難があるとされる発端(プロローグ)部分は適宜脚色する代わりに、少年と少女の物語を原典通り忠実に読んでいきます。

朗読を担当するのは、役者の鏡谷眞一さんです。

オスカー・ワイルドやダンヌンツィオなどの世紀末耽美文学、サイレント映画に造詣の深い鏡谷さん。きっとこの「天鵞絨の夢」の妖しくメタリックな美しさを引き出しつつ読んでくれるに違いありません。

2時間の朗読会のうち、第一部の朗読劇は1時間強、残りの1時間弱が第二部の解説「谷崎潤一郎の人口楽園」(坂本)となります。

谷崎作品の朗読はこれまでに数あれど、「天鵞絨の夢」の朗読という初の試み。

どうぞ皆様、この朗読会へお運びくださいませ。

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朗読会「天鵞絨の夢」

水辺に建つ白亜の館、それは綺想の楽園にして「女王」の魔睡の褥だった――

第一部:朗読劇『天鵞絨の夢』より「第一と第二の奴隷の告白」(鏡谷眞一)
第二部:トーク「谷崎潤一郎の人工楽園」(坂本葵)

10/22(日) 17:00-19:00
猫々文庫(東京都杉並区)
料金1500円、抽選申込制、定員15名

※申し込みはこちらから(Googleフォームが開きます)

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新装復刊『天鵞絨の夢』

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この朗読会に合わせて、谷崎潤一郎『天鵞絨の夢』(大正9年天佑社)を、個人出版(藍色手帖)にて新装復刊しました。

A5並装112頁、解説付き。表紙はG.バルビエの挿絵を元に新制作しました。

当日の会場で(定価1000円)、もしくはクラウドファンディング経由で入手できます。

ご来場予定のない方には、郵送も選べるクラウドファンディングがお勧めです。

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