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2015年6月

2015年6月30日 (火)

「である」ことと「であってほしい」こと―古代ギリシャ彫刻の色をめぐって

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(古代ローマ彫刻、プリマポルタのアウグストゥス像)

はじめに

白い大理石のギリシャ彫刻が、かつて極彩色にいろどられていたとされることを、あなたはご存知ですか? ちょっと想像してみて下さい、ルーヴル美術館にあるミロのヴィーナス像が、真っ白な大理石ではなく、原色の赤青黄緑……で着色されている様子を。純白のヴィーナスと極彩色のヴィーナス、あなたはどちらが好きですか? そして、あなたの美意識や趣味を他の人にも共感してもらいたい、と思いますか?

本記事では、古代ギリシャ彫刻のいわゆる「着色問題」を題材に、「である」ことと「であってほしい」ことについて考察します。

なお蛇足ではありますが、当記事のタイトルはもちろん、丸山眞男の『「である」ことと「する」こと』(1961)をふまえたものです。

「古代ギリシャ=白」という固定観念

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そもそも、私たちはなぜこんなにも「古代ギリシャは白亜の文明」という、強い固定観念を持っているのでしょうか?
ちょっと考えれば、これはかなり妙なことです。というのも、四大文明に始まり古代ローマ文明やアステカ文明、我が国の天平文化など、およそ世界のあらゆる古代文明では、極彩色の色彩感覚がむしろ一般的ですよね。むろん、現存している遺跡や文化財は色褪せているものが多いのですが、科学調査によって当時の色が再現されつつあります。
なぜ、ポンペイの壁画や「源氏物語絵巻」の復元なら「目の覚めるような古代の色彩だ!」と称賛されるのに、極色彩のギリシャ彫刻には違和感を覚えてしまうのでしょう? 高尚な芸術作品に色がついた途端、まるでテーマパークの張りぼてのような、キッチュで安っぽいものに見えてしまうのはどうして? そして、内心でつい(見なかったことにしたい……)と思ってしまうのはなぜなのでしょうか?

「古代ギリシャ=白」というイメージの源泉をたどっていくと、それを作り出すきっかけとなった主要人物として、18世紀ドイツのヴィンケルマン(J. J. Winckelmann,1717-1768)という美学者の名を挙げることができます。彼は『ギリシア芸術模倣論』(1755)や『古代美術史』(1764)によって、古代ギリシャ美術を人類が模倣すべき最高の芸術として理想化しました。
重要なのはヴィンケルマンによって、「白」が単なるパレット上に無数に並んだ色の一つではなく、「純粋無垢」「自然」「普遍美」などの理念と結びつけられたことなのです。理念と不可分のものとして称揚された以上、白は他の色とはもはや置き換え不可能。赤や青では意味がない、白でなくてはならないのです。

「である」ことと「であってほしい」こと

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しかし大変厄介なことに、古代彫刻には着色がされていたであろうという事実に、ヴィンケルマン自身も気づいていながら、彼はそれを意図的に無視してしまいました。
この歪みが、いずれどこかで弾けてしまわないわけはありません。その爆発例が、1930年代に大英博物館で起きた「エルギン・マーブル事件」。博物館の関係者たちが、かつては極彩色だった美術品の表面からその痕跡を「洗浄」してしまった、という大スキャンダルです。

私たちはしばしば、「~である」という事実と「~であるべきだ/あってほしい」という規範/ヴィジョンを混同しがちです。社会で行われる様々な経済活動や政治運動などが一般に、「事実」に基づいて「ヴィジョン」を立てるべきであるとするならば、事実のみを探究するのが学問であり研究であると言えるでしょう。
一番たちが悪いのは、「ヴィジョン」→「事実」という流れ。「こうあってほしいと思うから、事実はこうであった」。こんなことが博物館という研究の場で行われたら、それはもう「捏造」にほかなりません。エルギン・マーブル事件はまさに、「ギリシャ彫刻は白であるべきだ、あってほしい」という根強い固定観念が先立ち、彫刻の表面を研磨して着色の事実を隠蔽するという悲劇を生んだものでした。

「であってほしいこと」としての展示と修復

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さて、こうしてみると、「それなら今ミュージアムに展示されているギリシャ彫刻はみな間違った姿じゃないか。本来の正しい姿に戻すべきだ!」と主張する人が現れることでしょう。なるほど、一理ある主張ですね。この考えに賛同する人々が集まって、例えば「古代ギリシャの真実を愛する会」という組織を作ったとします(略称「真愛会」とでもしておきましょう)。こんど我が街の美術館で「古代ギリシャ美術展」が開催されることになったのですが、おや、真愛会の人たちがさっそく何か提案を主張していますよ。ちょっと耳を傾けてみましょう。

古代ギリシャでは彫刻に色がついていたのだから、真っ白な作品をそのままの形で展示することは真理に反している。そこで:

1. パネルやパンフレットなどにその事実をきちんと記載する。
2. 本来の色を忠実に再現した原寸大レプリカをつくり、並べて展示する。
3. オリジナルの彫刻に対して、本来の色通り着色した修復を施す。
4. そもそも「間違った」「問題のある」展示は中止すべきだ。

どうでしょうか? あなたならこの1~4までの主張、どこまで許容できますか?
私自身は1・2までなら概ね賛成ですが、3は留保付きで基本反対、4には全面的に反対、という意見です。
本稿の前半で見てきたのは、過剰な「であってほしいこと」(願望)が、「であること」(事実)を歪めてしまう、という事例でした。他方その逆もありえるのです。つまり、事実に基づいてヴィジョンを構想するのは重要なことでありますが、あまりにも事実にがんじがらめになってしまうと、もはや「であってほしい」と思考する人間が主体的に身動きを取ることができなくなり、ヴィジョンがヴィジョンでなくなってしまう、ということなのです。4の「ならば全部やめてしまえ」というのは、このような主体性の無力化の極北にあると言えるでしょう。

Ch29_anonymous_napoleon_displaying_「議員たちにアポロン像を見せるナポレオン」1799年の銅版画


選択肢3・4に賛成しかねるのは、もう一つ理由があります。「そうは言っても、ギリシャ彫刻から色が剥がれ落ちてきた2000年以上の長い歴史を<無かったこと>にしていいのか?(よくないよね)」という論点です。

個人的な思い出で恐縮ですが、私は学生時代にほんの下働きのアシスタントとして、南仏プロヴァンスの文化財調査に同行させて頂いた経験を忘れることができません。それは15世紀の教会祭壇画の調査でしたが、調査中にしばしば、19世紀の技術者による稚拙な修復痕が発見され問題になりました。これをどう処置するのかをめぐって、日仏の関係者が議論を交わしていましたが、「消せばいいって言うけど、19世紀は歴史じゃないんですか!」と日本人の先生が発言されたことが強く印象に残っています。

では果たしてどちらを取るべきか、については個別に慎重な議論をしなくてはならないと思いますが、ここで言いたいのは、まずはそういう議論が必要だということなのです。安易に「間違ったものは消せばいい」「美術品が劣化してきた歴史は無かったことにしていい」とはすべきでないと思います。

おわりに

古代ギリシャ彫刻の着色問題を題材としてきましたが、本文中で例として挙げた架空の「真愛会」はこの問題に限らず、あらゆる社会現象の中に偏在するものではないか、と思っています。

本文では話を広げすぎないため、ミュージアム展示だけに限定しましたが、実際問題この真愛会の人たちはどんどん活動の幅を広げていくことでしょう。次は、公園や公共建築のロビーによく置いてあるレプリカ彫刻についても、「真っ白なのはおかしい」と主張するかもしれません。ギリシャ旅行の広告やCMにも異議を唱えるかもしれません。「社会に誤った先入観を植え付ける」「子供の教育上悪影響」と反対しづらいワードを駆使しつつ、この世から白いギリシャ彫刻を駆逐しようとするかもしれません。

もしそういうことが起ころうとするならば、私たちは古代ギリシャの哲学者アリストテレスの唱えた「中庸の徳」を、今一度思い起こす必要があるでしょう。

2015年6月29日 (月)

古代ギリシャ女子会に行ってきた

ギリシャの経済危機が世界を騒がせている真っ只中ですが、先週末の6/28(土)、東京大学で古代ギリシャ関連の公開講座・野外劇上演イベントが行われました。
その後、研究家の藤村シシンさんを中心に有志で集まり、本郷の喫茶店で古代ギリシャについてなんと6時間(!)、熱く濃密に語り合いました。
ああ、これは部分的にでも書き残しておかねば……と感じたため、本エントリはその時の断片的記録です。

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【目次】
みんな、古代ギリシャ好き過ぎないか?/本郷で古代ギリシャトーク/完全再現! 野外供儀@東京ドーム/パルテノン神殿 極彩色プロジェクション・マッピング/断食月ギリシャ・グルメツアー

みんな、古代ギリシャ好き過ぎないか?

葛西康徳教授の「古代ギリシア教に改宗することはできるか?」という、何やら刺激的なタイトルの公開講座(東京大学文学部)。実を言うと、内容以前に驚いたことがいろいろあります。
まず、このタイトルに秘儀感ありすぎ。か、改宗、ですって?! わたし仏教徒なんですけど、一体何をされちゃうの? おそらく会場の教室では火が焚かれ、犠牲の牛を神に捧げ、「この場にいる者は誰か?」「善良なる市民!!」と斉唱したりするんだろうな……などと想像してしまいました。Tirasi1_2
そして当日、会場は大教室ながら満員、立ち見が出るほどの盛況ぶり。客層は老若男女バランスよく揃っていたので、お年寄りが無料のカルチャーセンター代わりに来ているとか、刀剣女子ならぬ「古代ギリシャ女子」が殺到……というわけでもなさそうです。次々と増えていく来場者を眺めながら「みんな、ちょっと古代ギリシャ好き過ぎないか?」と、思わずつぶやきました。そういうお前も、なんですけど。
ヨーロッパではむしろ、古典語教育の時間がどんどん削減傾向にあるというのに、アジアの島国で謎の古代ギリシャ熱が起こっている現象は、世界的に見ても興味深いんじゃないでしょうか。

本郷で古代ギリシャトーク

講義終了後、有志6名で近くの喫茶店ルオーへ入り、お茶をしながら古代ギリシャについて語り合うことにしました。
参加者は、専門家である藤村シシンさんと星彦さん、ギリシャ在住のHさん、占い師のNさん、天文がご趣味で絵師のMさん(あと私)です。ほとんど全員が初対面でしたが、共通点はギリシャ愛!

最初に店に入ったのが16時ちょっと前、ルオーが土曜日17時閉店のため、駅前のドトールへ移動して閉店の22時まで。つまり、気づけば6時間超トークしていたという……!
あ、ちなみに「古代ギリシャ女子会」という名称を勝手につけたのは私で、最初は漠然と「お茶会」って言ってたんですが、お茶会ってふつう店2軒ハシゴして6時間もやらないよな……と思いまして。

それでは、前置きが長くなりましたが、以下のまとめをご覧ください。四方山話の中からブレイン・ストーミングのように飛び交った、「こんな古代ギリシャを体験したい!」のアイデア集です。

完全再現! 野外供儀@東京ドーム

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先月5/23にお台場のTOKYO CULTURE CULTUREで行われた「古代ギリシャナイト」、善良な市民の皆様はご存知の通り、冒頭の祭儀は壮絶なものでしたね。犠牲の白牛が縄で曳かれ、会場を引きずり回された挙句、断末魔の叫びを上げながら頸動脈かっ切られ! 辺り一面血の海になるわ、内臓飛び散るわ! すかさずその場で火を焚き、牛を丸焼きに。もうもうたる煙と獣脂の臭いで会場はもう凄いことに――はならなかったんですよね。「消防法」という名の壁により……。
そこで、次はいっそ東京ドームあたりを借り切って「完全再現! 野外供儀」とかどうでしょう?(by 星彦さん)というお話に。

シシンさん 「東京ドーム? すげー!! 東京ドームいいですね、屋根ないから焼き放題だし、芝生とか牛の血ガンガン吸収してくれそうな感じだし!」
Mさん 「東京ドームで牛焼くのって、消防法的にはセーフなんですか?」
坂本 「よく分からないですけど、たぶんアウトかと…」
シシンさん 「どっかないかなあ、消防法的に大丈夫な場所」
Hさん 「牧場を一日借りてしまうとか……」
星彦さん 「キャンプ場とか、バーベキュー場貸し切った方が早くないですか?」
全員 「「「「「それだ!!!」」」」」

というわけで、来年のアポロン神のお誕生日会は、ひょっとしてBBQパーティになる可能性があるかもしれません。なお、シシンさんによればアポロンの君は脂の乗ったお肉がお好みではないので、最高級の松坂牛を用意しなくてもいいそうです。
(これは公開講座で葛西先生も仰ってましたね、古代ギリシャの供儀では神様に骨を捧げ、肉は人間が食べるのだと)

パルテノン神殿 極彩色プロジェクション・マッピング

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今では真っ白な大理石のパルテノン神殿ですが、当時は鮮やかな色彩に着色されていたことが、文化財科学調査によって判明しています(復元想像図)。ただそうは言っても、さすがに今から神殿をこういう色に塗り直す、という修復は現実的に不可能ですよね。そこで、夜間限定で極彩色プロジェクション・マッピングしてはどうか、と……。

Hさん 「でも、現地のギリシャ人で夜中に働いてくれる人が集まるかどうか?」
(※注:公務員の多いギリシャですが、役所などは午後2時に閉まるそうです。あまり日本人のように長時間労働しません)
シシンさん 「だったら、日本から人員を送り込めば!」
Hさん 「下から照明を当てるだけの普通のライトアップだったら、既にやってますけどねー」
Mさん 「パルテノン神殿って、真っ白だっていうイメージがあるから、派手な色を受け入れるのなかなか大変かも」
坂本 「慣れましょう。私らはもう無理かもしれないけど、下の世代には慣れてもらいましょう。子供の教育用にぬり絵つくって、『パルテノンしんでんをキミ色にそめよう!』みたいな」

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ちなみに後で調べてみたら、米国テネシー州ナッシュビル市にある、パルテノンの原寸大レプリカ神殿では極彩色ライトアップが試みられているようですね。古代色の再現、という文脈とは関係ないみたいだけど。ギリシャの本家も、一度やってみませんか? 今は経済危機でそれどころではないでしょうが……。

断食月ギリシャ・グルメツアー

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ギリシャにお住まいのHさんからは、衣食住・仕事・子供の教育など、日常生活について在住者ならではの興味深いお話を伺いました。
特に面白かったのが、ギリシャ正教の断食月です。詳しくはこのページあたりを見て頂きたいのですが、簡単に言えばイースター(復活祭)前などの一定期間、肉や乳製品などの食事制限をする宗教的習慣です。(イスラム教のように日中の飲食を禁じるわけではありません)

シシンさん 「私、断食月にギリシャ行ったとき、正直あんまりみんな厳格に守ってないな、って印象を受けたんですけど……」
Hさん 「あ、断食は最初の方って割とゆるいんですけど、期間中にだんだんエスカレートしていくんです」
ALL 「「「エスカレート」」」
Hさん 「最後の方とか結構厳しくなりますよー。レストラン行くと断食メニューあるし、お店にも断食フード売ってます。断食ケーキとか」
シシンさん 「断食ケーキ……! 何その、名称からして思いっきり矛盾してる存在……!!」
Nさん 「でも断食ケーキ、おいしそう」
シシンさん 「断食ラーメンとかも食べてみたいな~」
坂本 「え、断食ラーメン?! そんなのあるんですか??」
シシンさん 「いえいえ、ないと思います(笑) 断食月のギリシャ、今度はマックスにエスカレートしてる最後の方に行ってみたい!!」

欲しいよ、断食ラーメン……。ラー油の代わりにオリーブオイル入ってるのかな。ダイエット中にムシャムシャ食べてみたいよ……(←なんか本来と全く違う趣旨の食べ物になっている)。

そのほか、

・エペイロス(≒ドドナ)は古代ギリシャ人にとっての「古代ギリシャ」
・満月の夜なら停電なんて怖くない!
・ギリシャは乾燥しすぎ、日本は湿気多すぎ
・成田空港へ着くと空気中に水の分子が見える!
・普段いかに、東京の水と空気に甘やかされて生きているか!

などなど、飛び出した名言は数知れず。

いやー本当に楽しゅうございました。
ご参加の皆さま、どうもありがとうございました。
そして古代ギリシャファンの皆さま、今度はぜひ別のお茶会で語り合いましょう!

2015年6月10日 (水)

中世占星術師になれる? はじめてのアストロラーベ

きょう6月10日は「時の記念日」。
中世の美しい天文器具アストロラーベを使って、日の出・日の入りの時間を求める方法を解説します。
(※なお、これを身につけたからと言って、現代日本では特に有用性のない技術です。山や海で遭難してしまい携帯品はアストロラーベだけ……といった特異な状況であれば、ひょっとして役立つかもしれません)
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アストロラーベ(Astrolabe)とは?

10世紀頃アラビアで発明され、中世~近世にかけてイスラーム圏や欧州の天文学者、占星術師者が用いた天体観測機器。(詳細はこちらの参考サイトへ)
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アストロラーベ(レプリカ)を入手する

本物の骨董品となると大変高価で入手困難ですが、アストロラーベのレプリカならば比較的安価に(数千~数万円程度)求めることができます。私が持っている紙製レプリカはこちら:

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スペインAntiquus社 天文ポストカード・シリーズ
国内では、イタリア古典文具店のGiovanniジョヴァンニ(吉祥寺/池袋店)などで取扱いあり

アラビア語、ペルシャ語など様々な言語で表記されたアストロラーベが存在しますが、このレプリカはラテン語で書かれています。
以下、この紙製アストロラーベを使って説明していきます。

 

構造と各部のなまえ

アストロラーベには、表と裏の二面があります。まずは全体の一覧図から。
■印は固定部品、●印は可動部品です。
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表面の部品

1■ マーテル/基盤 (Mater)
__
アストロラーベの基盤・土台。360度の角度目盛り(アラビア数字)、24時間の時刻目盛り(ローマ数字)が表示されている(12時間時計で言うと、6時の位置が深夜0時に相当)。

2■ ティムパン/円盤 (Tympan)
___2
マーテルの上に乗った円盤で、その場所の高度方位の座表線が、実際の天空とは東西反転して描かれている。
※ティムパンはその場所の緯度によって内容が変わるため、本来は複数のバージョンが用意され、場所に応じて取り替えなければいけません。
しかしこのレプリカ製品はスペイン製のため、おおよそ首都マドリードの位置する緯度41度に固定されています。ヨーロッパならイタリアのサルデーニャ島やナポリ、日本なら青森県がだいたい同緯度です。

3● リート/枠円盤 (Rete)
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ティムパンの上に乗った枠状(もしくは網状)の回せる円盤で、星図が描かれている。黄道12宮や、明るい恒星(シリウス、リゲル、ベガ)など。ティムパン同様、東西反転している。

4● ルール/定規 (Rule)
太陽の位置を固定するための目印。

5■ ポスト/留め金 (Post)

 

裏面の部品

1■ 黄経目盛り
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外側の目盛り。360度目盛り(アラビア数字)と、黄道12宮目盛り(絵)が刻まれている。

2■ 日付目盛り
___5
内側の目盛り。1月から12月までの「月」(ラテン語)と、1日から31日までの「日」(アラビア数字)が刻まれている。

3● アリダード (Alidade)
定規状の棒。

 

日の出時刻を求める

それではアストロラーベを使って、きょう6月10日の日の出時刻を求めてみましょう。
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【1】 まずは裏面を使って、6月10日の星座宮と区間目盛りを調べます。内側のカレンダーで、「6月」(JVNIUS)→「10日」(10)の目盛りを探す。それを外側へ伸ばすと、星座宮は「ふたご座」(絵)、目盛りは18くらいであると分かります。

【2】 次に表面へ。リートの黄道リング上で、「ふたご座」(GEMINI)の18の目盛りを探します。これが6月10日の太陽の位置となります。この位置にルール(定規)を固定しましょう。

【3】 2で固定した太陽の位置が、ティムパン上の東の地平線に接するまで、リートを回します。地平線というのは、この図で言うとアイボリー色(昼)と青色(夜)との境界線に相当します。また実際の天体とは東西反転していますので、向かって左手が東です。

【4】 このとき、ルールが指しているマーテル(基盤)上の24時間目盛りを読みます。ここでは「Ⅳ」、つまり早朝4時を少し過ぎた辺りですので、4時10分ほどでしょうか。
よって、6月10日の日の出時刻は4月10分頃であると分かりました。

日の出時刻が分かれば、日没時刻も簡単に求められます。手順【3】で、リートを東ではなく西(向かって右)の地平線に接するまで回せばよいのです。すると、日の入りは19時10分頃と分かります。
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このように太陽の出没時刻予測のほか、測量など1000以上の使用法ができる万能アナログ計算機。それが、アストロラーベです。夜空を仰ぎつつ、中世天文学の世界に浸ってみませんか?

【参考サイト】
アストロラーベについて (出雲晶子さんのサイト)
http://lv1uni.web.fc2.com/astrolabe/alabe2.html

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