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2014年6月 9日 (月)

本当はひどかった星座の由来

 12星座の由来がギリシャ神話である、というのは有名な話でしょう。プラネタリウムでも、星空の美しい映像が流れ、これは巨人オリオン、これは弓を射るケンタウロス……と解説されます。
 しかし、そうした(とりわけ子供向けの)説明の多くは、きれいで無難な形にまとめられたもの。星座の由来であるギリシャ神話を詳しく読むと、驚きを覚えるに違いありません。「こんな理由で星座になったんかい!」と言いたくなるような、ろくでもないものばかりなのですから。

 例えば、「さそり座」。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』では、殺生を繰り返していたサソリが、今際のきわに懺悔し、自己犠牲の精神に目覚めたところを神に救済され、夜空で永遠に赤く燃える炎となる――という、美しい逸話がありますね。あれは、賢治の創作です。子供の頃読んだ、あのイメージを抱いていると、ギリシャ神話のひどさに仰天してしまいます。
 海神ポセイドンの息子オリオンは、狩りの達人。「俺は世界一の狩人さ!」と思い上がっています。それを聞いた、プライドの高い狩りの女神アルテミスはブチ切れて、オリオンを殺すことにします(沸点低すぎ……)。女神に遣わされたサソリは、猛毒のある尾でオリオンのかかとを刺し、彼を死に至らしめます。サソリはその功績により、天高く「さそり座」となりましたとさ。
 宮沢賢治って、本当にイマジネーション豊かな詩人だと思うんですよ。一体どうしたら、この酷すぎる神話から、あんな美しく尊いサソリの話が書けるんでしょうか? ちなみに賢治はオリオンも好きで、彼の作詞した歌や詩の中に登場します。

 この種の、「誰それを殺害した(or苦しめた)功績によって、星座にしてもらえた」式の由来が、実は一番多いのです。ゼウスの正妻ヘラが、夫と人間の女との間に生まれたヘラクレスを殺そうと、動物たちをけしかけたのが、「かに座」「しし座」の由来です。獅子はともかく、蟹は海辺の小さな可愛い生き物ではなく、カニ型の巨大な化け物(ヒュドラ)ですからね。

 それに次いでろくでもないのが、略奪系のエピソードでしょうか。
 「おうし座」はエウロペの物語。フェニキアの王女エウロペを誘惑しようと、ゼウスが白い牡牛に化ける。「まあ、綺麗な牛さん……」と彼女がまたがった瞬間に疾走、そのままクレタ島に誘拐。このエウロペの名が「ヨーロッパ」の由来なんですけど、ヨーロッパ人は嫌じゃないのでしょうかね?

 ゼウスは女好きでしたが、美少年も好きでした。トロイアの王子ガニュメデスが美少年だったので、大鷲に化けてさらっていってしまいました。で、自分のお小姓さんにして、お酌とかさせます。息子がいなくなり両親は嘆き悲しみますが、それを伝え聞いたゼウスは、「大丈夫、天界でちゃんと元気にしてるから。ほら、こんな風に!」と、水甕から酒を注ぐ少年の姿を夜の星座「みずがめ座」にし、父母の悲しみを癒したのでした。って、全然癒されないだろ……。

 あと、「てんびん座」が、正義の女神アストライアの持つシンボルだというのは、比較的有名かと思いますが、それは、どんどん堕落していく人間に愛想を尽かした女神が、置き去りにしていった天秤だということは、あまり知られていないような気がします。むしろ、できれば広めたくないという空気を感じます。

 ちょっと切ないものでは、不死の種族が苦しみから逃れるために死を願い、不憫に思ったゼウスによって星座にされる、という話もあります。「ふたご座」(カストルポリュデウケス)や「いて座」(ケンタウロスの賢者ケイロン)がそれです。ここだけ聞くと、泣ける話のように思えますが、死を願うまでの苦しみに至った経緯が野蛮なので、あまり同情の余地はありません。

うお座」と「やぎ座」は同じエピソードが由来です。
 ある日、ナイル川のほとりで神々が宴を開いていると、テュポンという怪物が現れました。神々はいろんな姿に変身して逃げるのですが、美の女神アフロディテ(ヴィーナス)と子供のエロス(キューピッド)は、魚に変身して川を泳ぎます。二人ははぐれないよう、体をリボンで結び、その母子の仲睦まじい姿が「うお座」となりました。おおっ、初めてのいい話!
 一方、森の牧神パーンは、魚に変身するつもりが慌てていたため、上半身がヤギ、下半身が魚という変な姿になってしまいました。それが可笑しかったので、ゼウスが面白がって天に上げ、「やぎ座」にしましたとさ。……なんと言いますか、これのせいで、折角の「うお座」のいい話までブチ壊しになってしまうと感じるのは、私だけでしょうか?

 残りの、「おひつじ座」と「おとめ座」のエピソードは、まあ、まともな話です。しかし、今ひとつ印象に残らない逸話であることも確か。やはり、後世の人々に長く語り伝えられるためには、少々ろくでもない話であるくらいが、ちょうどいいのかもしれません。

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