公園で新人賞の選考結果を待っていたら、鷹に遭遇した話
(前回までのあらすじ)
日本ファンタジーノベル大賞、選考会当日。
受賞作が決定し次第、最終候補者には、担当者から電話が入ることになっているのだ。
世田谷城址公園で連絡を待つ、私。
そこへふらりと現れ、向いのベンチに腰掛けた男性が連れてきた生き物は……。鷹……?!
まじまじと二度見してしまったのだが、やっぱり鷹である。
この人って、いわゆる香具師か、鷹匠さん? 左手には革手袋をはめ、その上に足輪を付けた鷹がちょこんと座っている。まだ子供のようで、あどけない顔つきと仕草が可愛らしい。人間のおじさまの方は、ベンチに深々と腰掛け、完全にくつろぎモード。うーん、この人、誰かを待ってるのかなあ? でも、鷹同伴で……?
謎は深まるばかりである。そうこうしているうちに、4時10分、15分、20分……と、時は過ぎてゆき、いつ電話が鳴ってもおかしくない時間になってしまった。これは、かなり、まずいぞ……。というのも、私の中のどうしようもない好奇心が、今やすっかり「鷹」に向けられてしまっていて、もうこれ以上抑えることができないほどに高まっていたからだ。
でも……。
「あの、すみませんが……」っておじさんに話し掛けた瞬間に、電話が鳴っちゃったらどうしよう。最悪のタイミング、すごく気まずいよね。やっぱり、電話の後で声を掛けた方が……。あ、でも、その前に帰っちゃったらどうしよう。この人(と鷹)たち、もう30分前からここに居るし、そろそろ帰る時間なんじゃないかなあ。ああっ、もうっ、電話電話! 早く掛かってきてよ! この際、選考結果なんてどっちでもいいからさ!!
(↑ほんとにアレですよね、選考員の先生方、すみません。こういう不束者だから落選しちゃうんだよな、まったく……)
というわけで、興味と関心の対象が、
鷹とおじさんの正体>>>>>選考結果
にすっかり傾いてしまった私は、意を決して、おじさんに話し掛けることにしたのであった。
「あのう、失礼ですが、その鷹……」
「ああ、この子ね、うちのペットなんですよ」
「ペット?! ご自宅で鷹、飼われてるんですか? もしかして、鷹匠さんでいらっしゃいます?」
「いえいえ、そんなんじゃなくて、ただの趣味です」
いきなり話し掛けてきた挙動不審の私に対して、おじさまはとってもフレンドリーに答えて下さる。この子は、ハリスホークのタンタン君(※仮名)。2歳の男の子で、引き取ってから三か月ほどになるという。よく見ると、なかなかのイケメン(イケ鳥)!
「ハリスホークっていうのは、アメリカの鷹なんですけど、知能が高くておとなしいので、飼いやすいんですよ」
「タンタン君、お行儀よくて、賢そうな顔してますね~。今ここで、お友達でも待ってらっしゃるんですか?」
「いえ、これは「据え」と言ってね、いわゆる調教だな。こうやって手の上に長時間座らせて、なつかせるわけですよ。時々餌を与えますけど、このままずーっと据えておきます」
「ずーっと、ってどのぐらいなんでしょう」
「ええと、いま何時ですか?」
「4時……40分ですね (←っていうか、電話…まだ?)」
「ああ、そう。ここに来たのが4時頃だから、まあ、日没ぐらいまでかなー」
「えっ? 日没って……7時頃まで?!」
「うん、だいたい据えには、3~4時間ぐらい掛けるんですよ」
「へえええ~~~(←未知の世界に圧倒されている)」
「そう言うあなたは、ここで何を? 誰かとお待ち合わせなんですか?」
「いえいえいえ、私は、えーとその、電話……。仕事の電話を待ってるだけなんです」
ふう。危ない。ちょっと、泡食ってしまいましたぜ。
もし正直に、「日本ファンタジーノベル大賞の選考結果の電話が来るのを、待ってるんです」って言ったら、きっと驚くだろうな……。って言うか、夏の夕暮れの城址公園に、ハリスホークのタンタンと飼い主のおじさまがいて、小説家見習いの女と会話してるって、それ自体が何というファンタジーな光景……。
まあ、それはともかく、このおじさまは相当の鷹好きらしい。心底から鷹を愛しているようなのだ。ここから先は、鷹にまつわる薀蓄を滔々と語ってもらった。
面白い話はいろいろあるのだが、猫小説の作者として興味深かったのは、「鷹vs猫」の力関係。猛禽ちゃんvs肉食獣、エキサイティング・バトルです!
で、鷹と猫なら、どう考えても鷹の圧勝だと思うでしょう? ところが、そうとも限らないんですって!
というのも、鳥は暗いところでの視界がきかないため、夜中に寝込みを襲われた場合、鷹ですら猫にやられてしまうらしいですね。やっぱり猫最強(凶)、ってことなんでしょうか。
だから、自宅で鷹を飼う場合には、ベランダに設置した止まり木に夜寝かせるのは危険で、家の中か、籠に入れておかないといけないそうです。猫対策として。ふーん。将来、鷹を飼うときの参考になるなあ(←飼うのかよ)。
……というようなレクチャーを受けている真っ最中、ついに私の携帯電話が鳴った。
結果は、落選でした。
うーん残念。大賞なら500万円の賞金が出るので、将来鷹を飼ったり鷹舎を造るための資金が確保できたんだけどな! (←だから、飼うのかよっていう)
いやーしかし、本当に貴重な体験させてもらったので(主に鷹関係により)、全く不満はありません。今後ともたゆまず精進し、鷹に関する知識と愛を深めていきたい所存!
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